――何万回言葉を紡ぐよりも、きっと。
ベッドの縁に腰掛けて、交わすのは他愛もない言葉達。
手を伸ばせばすぐ届く距離に彼女がいる。
「シオン」
吐息のように名前を呼んでも、彼女は気付いて視線をこちらに向けてくれる。
どんな小さな呟きだって察してくれる。
「Jr.君?」
どうかした? と首を傾げる彼女が愛しくて愛しくて、思わずその身体を引き寄せて抱き締めた。でも少し力が強かったのか、バランスが崩れて二人一緒に倒れ込む。
「きゃあっ」という小さな悲鳴も、続く僅かな抗議の声も、全部全部腕の中。
温かくて、柔らかくて、華奢で、すぐ壊れてしまいそうで――でも、壊れない。
腕の力をほんの少し強めて、彼女の髪に鼻先を埋めて息を吸う。胸いっぱいに広がる彼女の匂いに心が満たされていく。
幸せで、幸せで――幸せで、いても良いのだと。優しく背中に回された彼女の腕がそう思わせた。
互いの体温も、息遣いも、ほんの少し早い鼓動も伝わってくる、信じられないほど穏やかで優しい時間。
自然と頬が緩んでくる。きっと、俺は笑っている。過去のしがらみだとか普段感じているコンプレックスだとかが頭から全部消え去って、ただ愛おしいという気持ちだけが溢れている。
「好きだ」とか「愛してる」とか、そんな言葉を幾度囁いたって、そんなものは薄っぺらくてこの想いを伝えるには全然足りない。例え声を大にして叫んだって届け切る事は出来やしない。
この、今にも溢れ出しそうな想いを伝えるには、
「――あのさ、シオン」
キスして良いですか?
囁くと、彼女は「馬鹿ね」と笑って、そっと目を閉じた。
それが返事。
拙い言葉を何万回紡ぐよりも、きっと、このキス一つで。