「出かけないか」と言ったら、彼女はちょっと驚いた顔をした。
「どこに行くの?」
「ついてからのお楽しみ」
悪戯っぽく笑う俺に彼女はきょとん、と碧の瞳を瞬かせて、それから「良いわよ」と笑った。
「ねぇ、皆は一緒に行かないの?」
歩き出してしばらくして彼女がそんな事を言う。彼女の性格を思えばそれは充分予想出来た範囲だったけれど、やっぱり心がざわついてしまう。
俺にとって彼女は特別だけれど、彼女にとっての俺は他の皆と変わらないという表れだから。
「良いんだよ、今回はシオンだけだから」
立ち止まってそれだけ言って、また歩き出す。声が拗ねたものになってしまって(これじゃあガキそのままじゃないか!)自己嫌悪に彼女の顔が見れなくて早足になった。
「ちょ、ちょっと待ってJr.君! 私だけって……」
追いかけてくる、慌てたような彼女の声。後半の口調が僅かに違ったものに変化した気がして振り返った。
ほんの少し高潮した頬。
(もしかして、照れてる?)
まさか、まさか。でも、そうだとしたらそれはなんて嬉しい事なのか!
心が震える。彼女の反応が淡い期待となって、その言葉を口にする勇気になった。
「――シオンだけ、特別」
情けない事に少しだけ震えてしまった声。
あぁ、それでも。その後に彼女が浮かべた笑みは、俺にますます期待を抱かせるのには充分で――。
「二人で、見たいんだ」
「……うん、楽しみにしてる」
はにかんだように笑う彼女はとてもとても可愛かった。