その場所に向かう時、シオンの足取りはどことなく軽やかなものになって。
彼の姿を目にした時、シオンの表情は明るいものになって。
彼と話す時のシオンは本当に楽しそうで、その頬は綺麗な薔薇色に染まって。
彼を見詰めるシオンの瞳は、熱を含んだように潤んだものになっている。
そんな彼女の姿はまるで恋をしているようだと思って、(冗談じゃねえ!)Jr.は慌ててその考えを打ち消した。
「――あ、Jr.君。ここにいたのね」
「シ、シオン」
今まで思考を占めていた当の人物の声に心臓が跳ね上がる。忙しない鼓動を落ち着かせ、振り返った。立っていたのはやはり彼女。
「どうしたんだ?」
「あのね、実は……Jr.君に紹介したい人がいて」
「……紹介したい人?」
初心な少女のように頬を染め、恥らうシオンに、何か、嫌な予感がした。不安が頭をもたげ、ドクドクと心臓が騒ぎ出す。気分が悪い。警鐘が、頭の中を――。
しかし、そんな不吉な予感とは裏腹に、シオンは幸せそうな笑みを浮かべる。
「紹介するわね。――私の恋人の、エージェントうーくんよ」
「……はい?」
「やぁ! 僕のシオンがいつもお世話になってるね!」
「はぁ!?」
ひょっこり彼女の背後から現れた白い彼に、思考の全てが吹き飛んだ。
こいびと?
――だれが?
ぼくのシオン?
――このうさぎが?
シオンが兎を模したそのキャラクターが大好きだというのは前々から知っていたけれど。最近の彼女の態度はまるで、なんて事も思ってしまっていたけれど。でも、まさか。よりにもよって?
呆然とするJr.の前で、目の前の恋人達は幸せそう――片方の表情はよく分からなかったけれど――に微笑みあっている。
(ちょっと待て。いくらなんでも、それは――。)
意識が遠くに行きそうだ。ぐらぐらと平衡感覚を失って、倒れそうになりながら、Jr.は叫び声を上げた。
※
「うわぁああああああ!」
自分の悲鳴に飛び起きた。
辺りは暗い。身体の下には柔らかな感触。
――これはベッドで。自分は寝ていて。つまり、今のは、
「……ゆ、め」
息を吐き出す。肺の中の全てを外に出すように、深く。
びっしょりと浮かんだ汗で額に髪が張り付いていた。
激しく動く心臓の音が耳に煩く響いている。
「なんつー夢だよ……」
倒れ込む。ぽすんと音を立ててベッドは小さな身体を柔らかく受け止めた。
「……やっぱ、別のモンにするかな」
彼女が好きだから、と思わず購入したヌイグルミ。
綺麗にリボンもかけてもらったものの、なかなか渡す機会がなく、いまだに部屋の片隅に鎮座しているそれ。
渡せば彼女のうーくん好きにますます拍車がかかるような気がして、どうしたものかとJr.は溜息を吐いた。