大好き

 その場所に向かう時、シオンの足取りはどことなく軽やかなものになって。

 彼の姿を目にした時、シオンの表情は明るいものになって。

 彼と話す時のシオンは本当に楽しそうで、その頬は綺麗な薔薇色に染まって。

 彼を見詰めるシオンの瞳は、熱を含んだように潤んだものになっている。

 そんな彼女の姿はまるで恋をしているようだと思って、(冗談じゃねえ!)Jr.は慌ててその考えを打ち消した。

 

「――あ、Jr.君。ここにいたのね」

「シ、シオン」

 今まで思考を占めていた当の人物の声に心臓が跳ね上がる。忙しない鼓動を落ち着かせ、振り返った。立っていたのはやはり彼女。

「どうしたんだ?」

「あのね、実は……Jr.君に紹介したい人がいて」

「……紹介したい人?」

 初心な少女のように頬を染め、恥らうシオンに、何か、嫌な予感がした。不安が頭をもたげ、ドクドクと心臓が騒ぎ出す。気分が悪い。警鐘が、頭の中を――。

 しかし、そんな不吉な予感とは裏腹に、シオンは幸せそうな笑みを浮かべる。

「紹介するわね。――私の恋人の、エージェントうーくんよ」

「……はい?」

「やぁ! 僕のシオンがいつもお世話になってるね!」

「はぁ!?」

 ひょっこり彼女の背後から現れた白い彼に、思考の全てが吹き飛んだ。

 

 こいびと?

 

             ――だれが?

  

 ぼくのシオン?

 

             ――このうさぎが?

 

 シオンが兎を模したそのキャラクターが大好きだというのは前々から知っていたけれど。最近の彼女の態度はまるで、なんて事も思ってしまっていたけれど。でも、まさか。よりにもよって?

 呆然とするJr.の前で、目の前の恋人達は幸せそう――片方の表情はよく分からなかったけれど――に微笑みあっている。

(ちょっと待て。いくらなんでも、それは――。)

 意識が遠くに行きそうだ。ぐらぐらと平衡感覚を失って、倒れそうになりながら、Jr.は叫び声を上げた。

 

 

「うわぁああああああ!」

 自分の悲鳴に飛び起きた。

 辺りは暗い。身体の下には柔らかな感触。

 ――これはベッドで。自分は寝ていて。つまり、今のは、

「……ゆ、め」

 息を吐き出す。肺の中の全てを外に出すように、深く。

 びっしょりと浮かんだ汗で額に髪が張り付いていた。

 激しく動く心臓の音が耳に煩く響いている。

「なんつー夢だよ……」

 倒れ込む。ぽすんと音を立ててベッドは小さな身体を柔らかく受け止めた。

「……やっぱ、別のモンにするかな」

 彼女が好きだから、と思わず購入したヌイグルミ。

 綺麗にリボンもかけてもらったものの、なかなか渡す機会がなく、いまだに部屋の片隅に鎮座しているそれ。

 渡せば彼女のうーくん好きにますます拍車がかかるような気がして、どうしたものかとJr.は溜息を吐いた。