「良い店を知ってるんですが、いかがです?」
そう言って彼女を誘い、ランチを共にした、その帰り道。
和やかに言葉を交わしていたシオンの視線がふと、一所に留まったのにガイナンは気付いた。
何を見ているのか。彼女の視線を辿ると、その先には一軒の店。大きなショウウィンドウに飾られていたのは、デザインも様々なリングだった。
「バイブレーションリングですね」
「えぇ、最近流行っていると聞いたので」
二人の足が止まる。透明なガラスの向こうでは、多くの小さな輝きが己を身に着けてくれと主張するように煌いていた。
「ウヅキさんも興味がありますか? 贈られるなら、あのような指輪が良いと」
問いかけると、シオンは「私、ですか……?」と少し考え込んで、それから「いいえ」と首を振った。
「指輪自体に興味がない訳ではないですけど、あんな風に震えられたら作業の時に支障が出ると思いますから」
苦笑と共に語られた理由がいかにも彼女らしくて、ガイナンの口元に笑みが浮かぶ。
「そうですか。――では」
いったん途切れた言葉に、シオンがガイナンの顔を見上げた。
艶然と微笑むガイナン。黒い双眸が彼女を捉える。思わず見惚れたシオンに、彼は、多くの女性を魅了してきた深く艶のある声で言った。
「貴女に贈る時は、それ以外の指輪を用意する事にしましょう」
「……え?」
するりと耳に入ってきた言葉。数秒の間を置いて、やっと、シオンは言葉の意味を理解した。
「な、何を言い出すんですか、ガイナンさん!」
頬を染めて「冗談は止めてください」と言い募るシオンに、ガイナンは愛しい人を見るように目を細める。
しかし次の瞬間にはその笑みも消え、一転して真剣な眼差しになった。
「冗談で、女性にこのような事は言いませんよ」
シオンにだけ聞こえるように囁くと、彼女の左手を恭しく手に取り、ほっそりとした薬指にそっと口付けた。