わたしにはお気に入りの物がある。それはわたしの髪と同じ赤い色をした、革表紙の立派な手帳。いまどき珍しい、紙媒体のものだ。わたしの誕生日にってジンさんがプレゼントしてくれた。
わたしは、“紙”というものが好きだった。それはパパや、パパの兄弟のガイナンさんや、ママのお兄さんのジンさんが、皆揃いも揃って本が好きでその影響を受けたところもあるからだと思う。パパの書斎に行けば本はたくさんあったし、ジンさんの家にはもっともっとたくさんあった。だから、外で遊ばない日は大抵、書斎やジンさんの家で本に囲まれて、本を読んで過ごしていた。
わたしは本が好きで、紙が好きで、だから、ジンさんのプレゼントはとてもとても嬉しかった。ほとんど誰も使わないような、人から古臭いと笑われるようなものでもわたしにとっては大切な宝物だ。
その日、わたしはジンさんの家に遊びに行っていた。もちろん手帳も持って。まだ何も書いていないまっさらなページに予定を書き込んで、ぺらぺらとページを捲っていて、ある日付に“父の日”と書かれているのに気付く。
「ねぇ、ジンさん。父の日って?」
「父の日――ですか?」
「うん、ほら、ここに書いてあるの」
隣にいたジンさんに手帳のページを見せると、ジンさんはそれを覗き込んで「あぁ」と頷いた。
「父の日はね、父親に感謝の気持ちを伝える日なんですよ」
穏やかに笑って教えてくれる。ふぅん。そうなんだ。わたしはもう一度、“父の日”と書かれた文字を見た。
「父の日、かぁ」
父の日はもうすぐだ。パパに感謝の気持ちを伝える日。うん、せっかく知ったんだから、わたしもしてみたい。……でも、普通に“ありがとう”って言うだけじゃ、なんだかつまらないなぁ。
唇を尖らして考える。何かプレゼントも贈ってみようか。でもパパの好きなものは本とか、古式銃とか、子供のわたしじゃ到底買えそうもないものばかりだ。
「――あ、そっか」
思い当たった。簡単な事だ。パパの一番好きなもの、他にもあったじゃない!
「あのね、ジンさん! わたしも父の日してみたいんだけど」
耳貸してくれる? 声を潜めて言うと、ジンさんは笑いながら「はいはい」と顔を近付けてくれた。わたしも背を伸ばしてジンさんの耳元に口を近付ける。
「あのね……」
わたしは、思い付いた計画を話した。